浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「帰らずの海」

No.3295
【今日の1冊】
その切なさに涙する
「帰らずの海」

久しぶりに馳星周の小説を読んだ。「帰らずの海」は馳星周には珍しい警察小説である。Kindle287冊目。

辞令がなければ、函館に戻るつもりなどなかった。刑事・田原稔は、正式な着任の前日、殺人事件発生の報を受ける。被害者は、かつて若い愛情をかわした女、水野恵美だった。田原の胸に「あの時」のことが蘇る。この捜査に関わることは、二十年前に彼が故郷函館を捨てざるを得なかった、ある事情を追うことと同じこと。田原は黙々と捜査を続けていく。北海道の港町を舞台に、かつて若かった者たちの激情が交錯する。馳星周が描く、傑作警察小説。

さすが馳星周だ、と思わせる小説だ。1日で読了した引き込まれ方は半端ではない。田原の高校時代と警部補の今が交差する構成は名作「殉狂者」を彷彿させる。初恋相手・恵美を殺害した犯人を追い詰めれば追い詰めるほど、過去の傷に苦しむ田原の姿が切ない。ただ、おれが途中で犯人がわかってしまった所だけは残念だったのだが。
★★★☆☆