浮月堂黄昏抄

風流候・原田浮月堂の花鳥風月な日々

「野望の憑依者」

No.4183
【今日の読書】
「野望の憑依者」

鎌倉時代末期から、後醍醐天皇による建武の新政を経て、南北朝時代、そして室町時代を生きた〈悪党〉高師直(こうのもろなお)を描いた伊東潤「野望の憑依者(よりまし)」を読む。

時は鎌倉時代末期。幕府より後醍醐帝追討の命を受け上洛の途に就いた高師直(こうのもろなお)は、思う。「これは主人である尊氏に天下を取らせる好機だ」。帝方に寝返った足利軍の活躍により、鎌倉幕府は崩壊。建武の新政を開始した後醍醐帝だったが、次第に尊氏の存在に危機感を覚え、追討の命を下す。そのとき師直は。野望の炎を燃やす婆娑羅者(ばさらもの)・高師直の苛烈な一生を描いた南北朝ピカレスク、開演。

足利尊氏の家宰(執事)の高師直が主人公の小説は珍しい。鬱で常に曖昧な尊氏を励まし、鎌倉幕府を倒し後醍醐帝の建武の新政を崩壊させて、室町幕府を樹立させた高師直が、宿敵の足利直義(尊氏の弟)と対立する。日本史では有名な〈悪党〉として評価される高師直だが、彼なしでは足利の天下はなかった。すごく面白い歴史小説だった。