浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「みちたりた痛み」

No.3518
【今日の1冊】
バブル期の虚栄の恋愛
「みちたりた痛み」

5年ぶりに甘糟りり子の作品を読む。甘糟りり子の真骨頂のバブルな小説はあまりkindleでは読めないので本作品は貴重だ。読了時間は3時間。

「色々な物事を手にすればするほど、強烈な飢えが湧いてきた」のし上がる男、堕ちていく女、金に飽いた女、老いていく男。東京の街で出会い、別れ、再会する男女が繰り広げるせつない物語。テーブルの上を行き来する、恋と野心と死の予感。実在するレストランの名を冠した連作短篇8編を収録している。

甘糟作品は心に全く残らないが、バブル期の盛り上がりを思い出させる。バブル期とは1986年の12月から1991年の2月までの日本の異常なまでの好景気を指す。読む人によっては、非常に不愉快な小説だが、あの好景気に人々が狂喜した記録としてはいい。バブル期の虚栄に満ちた恋愛小説を書けるのは田中康夫甘糟りり子だけだろうし。
★★☆☆☆