浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「昔みたい」

No.3154
【今日の1冊】
バブル時代の女性たち
「昔みたい」

田中康夫の短編集が好きだ。おれの生まれ育った神戸の街や、出張で訪れた東京の品川や銀座が舞台になるからだ。
「昔みたい」は今から36年前の1987年の掌編集だ。

胸ときめかせて、煌めく恋の一瞬を、精一杯着飾って過ごしたあの頃。少しだけ背伸びの恋、素敵な時間。でもそれは、遠い昔の思い出。20代後半から30代前半の女性たちの現在と過去、幸せと悲しみを、東京、芦屋、軽井沢、ヴェネチアなどを舞台に描く15の掌編。

読んだ感想はあまりにチャラいし、セレブ女性の話に少し辟易する。移動はメルセデスであったり食事はフレンチレストランなのだ。
しかし、それはわからないでもない。作品は1987年とバブル景気真っ最中だからだ。あの頃の日本は浮かれていた。
おれは北新地の入口のデザイン事務所に勤務していたが、あの頃の北新地は不夜城だった。花束を抱えてラウンジに向かう若いサラリーマンとか、歩いて15分なのに堂島から梅田までタクシーに乗る広告代理店の人間も数多く見た。
「昔みたい」に出てくる女性たちは普通に不倫する。そして、満たされているのに純粋な頃の恋愛と今を比べて、ため息をつく。
生活が豊かであるセレブだからと言っても、幸せとは限らないのだ。
★★☆☆☆