浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「花の降る午後」

No.3073
【今日の1冊】
舞台は良いのだけれど
「花の降る午後」

たまに宮本輝作品を読む。
一番好きな小説は「私たちが好きだったこと」だが、久しぶりに「花の降る午後」を読んだ。
1988年の刊行時、本を半分読んだあたりで、映画化作品を観てしまい、残り半分は未読に終わった。
今回、新たにKindleで読んでみたのだが。

最愛の夫を癌で亡くし、神戸山手の老舗レストランを女手一つで切り盛りする典子。仕事は厳しく人の良いシェフ、実直で有能な支配人、懸命に働くウェイターたち。店を継いでからの4年間を振り返ると、彼女はとても充実していた。
そんなある日、生前の夫に買ってもらい、今は店に掛けた油絵を貸してくれという青年が現れた。彼の名は高見雅道。その絵の作者だった。
一方、店の乗っ取りを狙う魔の手が伸びてくる。典子に訪れた新たな恋愛、そして今、闘いが始まる。

神戸出身のおれには馴染み深い場所が登場し嬉しい。
ただ、小説としてはいくつかの疑問点が残るのだ。
主人公の典子にも、典子の恋の相手・高見雅道にも感情移入が出来ないのだ。
店が大変な時に恋愛に溺れる典子にも、ある意味で自分本意な雅道にも、おまえらガキの恋愛か、と思ってしまう。それに店の乗っ取り阻止に典子は何も闘っていないのだ。要するに他人任せだ。
感想から言うと、フランス料理店の女主人と年下の画家の恋愛物語か、店の乗っ取りをテーマにしたサスペンスに分けた方が良かった。
1981年に映画化されているが、こちらもあまり印象に残る作品ではなかった。
典子を古手川祐子、雅道に高嶋政宏、店の乗っ取りを企む女に桜田淳子が扮した。元町センター街をフランス人のような帽子で歩く桜田淳子に失笑した記憶がある。