浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「沈黙の森」

No.3306
【今日の1冊】
避暑地の血の抗争
「沈黙の森」

「帰らずの海」に続いて馳星周の「沈黙の森」を読む。やはり馳星周作品は読んだら止まらない。歌舞伎町ではなく、意外にも軽井沢を舞台にしたノワール小説だ。

暴力団・東明会の金を持ち逃げした男が、軽井沢に潜伏している。金額は五億。東明会はもとより、大金の匂いを嗅ぎつけた危険な連中が軽井沢に現れ、血眼になって男の行方を捜し始めた。かつて新宿で「五人殺しの健」と呼ばれ名を馳せたが、今はヤクザ稼業から足を洗って、軽井沢で別送管理人として静かに暮らす田口健二。そんな彼のもとにも、協力を要請する輩が現れて……。やがて軽井沢は、血で血を洗う、欲望と抗争と復讐の町と化す。

暴力の世界から身を引いた者が再び復活するのは、北方謙三の小説に多いパターンだが、馳星周は高級避暑地の軽井沢でそれを描く。名作「不夜城」ほどのブラックさも、まさかの展開がない部分は不満だが、それなりに面白い小説ではあった。
★★★☆☆