No.3766
【今日の1冊】
素晴らしい時代小説
「涅槃の雪」
初めて西條奈加の時代小説を読んでみた。司馬遼太郎は歴史小説であり、池波正太郎の作品が時代小説の典型だ。池波正太郎を踏襲する作家は山本一力だが、西條加奈の「涅槃の雪(ねはんのゆき)」も実に素晴らしかった。
町与力の高安門佑は、新任の北町奉行・遠山景元の片腕として市井の取締りに励む毎日だ。その最中、元遊女のお卯乃を屋敷に引き取る。お卯乃との生活に安らぎを覚える門佑だったが、老中・水野忠邦が推進する天保の改革は、江戸を蝕み始めていた。改革に反対する遠山らと水野の鬩ぎ合いが苛烈を増す中、門佑は己の正義を貫こうとするが。爽やかな傑作時代小説。
江戸時代の三大改革は、徳川吉宗の「享保の改革」、松平定信の「寛政の改革」、水野忠邦の「天保の改革」だ。中でも「天保の改革」は一番評判が悪く、失敗に終わった。この改革に歯向かったのが遠山の金さんこと遠山景元であり、高安門佑はその右腕として頑張る。しかし高安門佑は無愛想で融通がきかないため、周囲との軋轢に苦労する。しかし最後まで自分の信念を貫く潔さがある。ラストは悲しい結末だと思っていたが、最後の5ページで救われる。久々に良い、時代市井小説だったな。
★★★★★