浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「貘の耳たぶ」

No.3533
【今日の1冊】
血縁関係とは何か
「貘の耳たぶ」

またまた芦沢央の小説を読む。「貘(ばく)の耳たぶ」だ。芦沢央お得意のミステリーではなく、正統派のサスペンスだ。読むのが辛く、読了に3日もかかってしまった。

自ら産んだ子を産院で取り替えた繭子。発覚に怯えながらも、息子・航太への愛情が深まる。一方、郁絵は取り替えられた子と知らず、息子・璃空を愛情深く育ててきた。それぞれの子が4歳を過ぎた頃、取り違えが発覚。元に戻すことを拒む郁絵、沈黙を続ける繭子、そして一心に「母」を慕う幼子たち。切なすぎる事件の慟哭の結末は。

繭子のダメな人間ぶりに不快感を感じ、なかなか読み進めなかった。陣痛の痛みに自然分娩から逃げて帝王切開で出産したり、赤ん坊の沐浴を絶対に無理と初めから諦めたり、どう考えても育児から逃げることばかり考える。取り替えが発覚しても言い出せず、それにより郁絵が苦しむのに同情してしまう。子供は親を選べない。だからこそ産んだ子に対する責任は重大だ、と感じさせる小説だった。不快な小説だったが、構成は良くできていた。おれは子供に恵まれないならば諦めるより養子縁組でも構わないと思っている。元々夫婦は他人なわけだし、そこに他人の子供が入り、本当の家族になればいいわけだ。自分の子供、血縁にこだわるなんて、つまらないしナンセンスだと思うけどねえ。
★★★☆☆