浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「今だけのあの子」

No.3504
【今日の1冊】
女の友情は複雑
「今だけのあの子」

「汚れた手をそこで拭かない」に続いて、芦沢央の「今だけのあの子」を読む。kindle326冊目で読了時間は3時間。

結婚おめでとう、メッセージカードを書く手が震える。大学時代、新婦とは一番の親友だった。けれど恵には招待状が届いていない。たった6人しかいない同じグループの女子の中で、どうして私だけ線引きされたのか。呼ばれてもいない結婚式に出席しようとする恵の運命、そして新婦の真意とは(「届かない招待状」)。進学、就職、結婚、出産、女性はライフステージが変わることでつき合う相手も変わる。「あの子は私の友達?」心の裡にふと芽生えた嫉妬や違和感が積み重なり友情は不信感へと形を変えた。面倒で愛すべき女の友情に潜む秘密が明かされた時、驚くべき真相と人間の素顔が浮かび上がる傑作ミステリー短篇集全5篇。

昔から「親友」という言葉に懐疑的だった。果たして相手は自分を本当に親友だと思っているのか。 5つの短編の中でも「届かない招待状」が秀逸。親友だと思っていた相手から結婚式の招待状が届かないことは割合ある話だ。逆に届いたのに欠席することもある。理由は出張と重なったり、祝金を出す余裕がなかったり様々だ。まあ同じ高校や大学、結婚式以降は少し距離を取る方が懸命だろう。「今だけのあの子」はよく出来た〈連作短編集〉だ。読みながら暗鬱な気分になるものの、決して希望のない終わり方ではない。全話が別の話であるものの、全ての話が繋がる伏線がある。芦沢央は長編も短編も素晴らしい。
★★★★★