浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「火のないところに煙は」

No.3231
【今日の1冊】 
最恐の怪異短編集
「火のないところに煙は」

たまたまKindleの無料書籍を検索していて見つけた芦沢央の「火のないところに煙は」を読んでみた。これが凄い短編集だった。芦沢央という作家を全く知らなかったことは迂闊だったなあ。

神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の〈私〉は驚愕する。忘れたいと封印し続けていた痛ましい喪失は、まさにその土地で起こったのだ。私は迷いながらも、真実を知るために過去の体験を執筆するが。謎と恐怖が絡み合い、驚愕の結末を更新しながら、直視できない真相へと疾走する。読み終えた時、怪異はすでに他人事ではないのだ。

読後の衝撃は、フェイクドキュメンタリーの傑作シリーズ「放送禁止」に似ている。実在の小説新潮に、神楽坂を舞台にした怪談を依頼された<私=芦沢央>が体験した怪異を書くわけだが、それが月替わり掲載の短編なのに奇妙な連係を成している。鈴木光司の小説「リング」に近いかもしれない。「火のないところに煙は」はフェイクドキュメンタリーの怪談だと思うのだが、それがいつしか実話ではないのか、という疑惑すら生まれる。芦沢央が女性作家であることは読み終わってから知った。これもまた迂闊だった。
★★★★★

放送禁止
https://youtu.be/DyK6cmg-hR4