浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

泉鏡花  義血侠血

No.3801(再)
【今日の1冊】
この偶然に涙する
泉鏡花  義血侠血」

明治から昭和にかけての浪漫主義作家の泉鏡花が好きなので、以前より名作短編「義血侠血」(ぎけつきょうけつ)が読みたかった。永く古書店めぐりをしたが見つからなかったのだが、最近ようやく電子書籍化されたので、早速Kindleで読んでみた。「義血侠血」という題名よりも昭和初期生まれの人には、映画化もされた「滝の白糸」の名の方がピンとくるのではないだろうか。

夏の某日、乗合馬車に一人の怪しい美人が乗る。馬車を操る若き運転士の村越欣弥はトラブルに巻き込まれ職を失ってしまう。別の場所で女は欣弥と再会する。実は女は滝の白糸という人気の水芸の太夫だ。法律を学びたい、という欣弥の夢を聞いた滝の白糸は彼のパトロンとなる。欣弥は東京で順調に法律を学ぶが、白糸は仕送りの金を悪党に強奪されてしまう。悲嘆と絶望のなか今度は自らが強盗になり、金のために殺人まで犯してしまう。被告になった白糸は裁判に出廷し、そこで検事代理になった村越欣弥と再会するのだが。

水芸(写真)というのは寄席等で水を自由自在に操る芸を見せる芸人のことだ。本作や、恋しい人の名を口にすることを恐れて手術の麻酔を拒否する伯爵夫人を描いた「外科室」など、泉鏡花の作品には叶わぬ恋と偶然の再会が多い。そこに涙する。日本の純文学の傑作です。
★★★★★