浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「悪いものが、来ませんように」

No.3241
【今日の1冊】
真の親子関係とは何なのか
「悪いものが、来ませんように」

芦沢央の「火のないところに煙は」に衝撃を受けたので、「許されようとは思いません」「バック・ステージ」「悪いものが、来ませんように」の3冊を読んでみた。どれも完璧に近い作品だった。1日で読んだ「悪いものが、来ませんように」はまたもやられた!と思わせるミステリーで、真の親子関係とは何なのかを考えさせられる作品だった。

育児に非協力的な夫、孤独な育児、娘との関係性に悩む奈津子。そして、不妊と夫の浮気、満たされない承認欲求に苦悩する紗英。強い絆で結ばれた2人の女の関係は、次第に歪なものになっていく。そして突如として訪れた、紗英の夫の死。逮捕された犯人とは。奈津子と紗英のそれぞれの人生に大きな転機が訪れるのだが。

作品を通して感じるテーマは、<歪な親子関係>だろうか。意志決定が弱く、30歳を過ぎても一人立ち出来ない紗英。周囲とうまく関係が築けず、夫やボランティア先からの孤立に悩む奈津子。こういう女性は意外に多く、いや、男性にも多いのだ。それは社会問題というよりは、やはり個人の資質の問題なのだ。
第五章のラストの奈津子の言葉に絶句する。そしてエピローグの最後の5ページに涙する。芦沢央は近いうちに直木賞を受賞するような気がするのだが。
★★★★★