浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「翳りの城」

No.3397
【今日の1冊】
復讐対武士道
「翳りの城」

迂闊にも三吉眞一郎という作家を全然知らなかった。つい無料Kindleだったので読んだのだが、これが凄い小説だった。これが62歳でのデビュー作品とは思えなかった。

「この城は人を喰らうのか」 戦国最強の武田軍に襲い掛かる殺戮の城とは?
元亀三年(1572年)、武田信玄が上洛を開始。主力部隊の側面警護を務める猛将・剣崎弦馬率いる別動隊は、天龍峡の丘に奇妙な小城を発見する。その城は無表情の壁面を持つ四方形で、堀もなく櫓もない異様なものだった。さらには人影も見当たらない。弦馬は徳川軍の城と判断し、突撃の命を下すが、仕掛けられた数々の罠によって兵たちは次々と血の海に沈んでいく。異常な事態に当惑しながらも弦馬は死力を尽くして謎の城を攻略せんとするが。凄惨な戦闘シーンと驚愕のミステリー、全く新しい戦国時代小説巨篇。

戦国最強と呼ばれる武田騎馬隊を次々に葬り去る魔の城の正体は、武田軍への怨嗟を秘めた〈復讐の城〉だった。武田軍の武士道と、城側の復讐の陰に、どちらも譲れないものがあり、それがきっちり描かれているところが凄い。山田正紀の「風の七人」を彷彿させるような破天荒な時代小説だが、武田信玄の上洛についての時代考証が、よりリアルで良かった。素晴らしい作品です。
★★★★★