浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「オリックスはなぜ優勝できたのか」

No.2867
【今日の1冊】
奇蹟ではなく理論的だった
オリックスはなぜ優勝できたのか」

昨年のセリーグ優勝はヤクルト、パリーグ優勝はオリックスバファローズだった。共に一昨年はセ・パ最下位チームだったのだが。特にオリックスは5位6位を動かなかっただけにリーグ優勝は奇蹟に近いと思っていた。そんな時に「オリックスはなぜ優勝できたのか~苦闘と変革の25年」(喜瀬雅則・著)を読んでみた。著者がスポーツ紙オリックス番の記者だけに第三者視点がいい。

阪急ブレーブスを買収して生まれたオリックスブルーウェイブと、近鉄バファローズが球団合併して出来たオリックスバファローズ。その初代監督は近鉄とブルーウェイブでの優勝経験を持つ仰木彬であり、昨年のパリーグ優勝の監督・中嶋聡はその愛弟子だ。中嶋体制は従来までの「どんどん練習しろや!投げろや!打てや!」という古い体質のコーチ陣の体育会系の指導を否定し「選手が自分に足りないのは何か」を気づかせるまで待つ。また巡回ヘッドコーチに元選手ではなく、野球素人のトレーニングの専門家を起用した。それらの変革が花を咲かせたバファローズパリーグ優勝は単なる奇蹟ではなく理論的だったのだ。

本書には中嶋バファローズの変革だけではなく、オリックス近鉄の合併時の逸話にも触れている。近鉄最後の監督の梨田昌孝は合併時に近鉄のカラーを残すべく配慮したオリックス側から一軍ヘッドコーチへの転任を打診され、監督となった仰木彬からも強く慰留されるが「選手・スタッフやファンがばらばらになり、その進路も決まらないうちに自分一人が残るのはできません」と辞退した。あくまで「近鉄の梨田」としてユニフォームを脱ぐことを望んだため、球団解散前の10月15日付けで退団した。師匠である仰木の要請を断腸の思いで断ったエピソードには泣けた。名著です。