浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「麻酔」

No.3050
【今日の1冊】
これは現代人への警鐘だ
「麻酔」

今までかなりの渡辺淳一作品を読んできた。
20代は「無影灯」などの医療小説を、30代は「化粧」などの川端康成を継承したような四季を描いた小説。それ以降は「失楽園」「愛の流刑地」みたいな偏愛小説だ。
未読だった「麻酔」を読んでみた。これは1993年に発表された医療ミスを描いた小説である。

子宮筋腫の手術を受けた妻の邦子は麻酔のミスで意識不明のまま眠り続ける。
石鹸メーカーのデザイン室の室長を務める夫の福士高伸は妻の意識が戻るよう、夜の病床で妻を密かに愛撫さえしたが全く目醒める気配がない。妻であり母・邦子がいなくなった家庭は次第に虚ろなものになっていくのだが。
結婚式が近づく長女、母の介護のために仕事を辞めた次女、自分の無力さを嘆く長男、仕事に没頭するしかない夫。
医療ミスにより、家族の将来はどうなるのか。

病気になった時、人は医師に頼る。これは仕方のないことだ。
おれはサラリーマン時代にあらゆる大学の医療研究者や医師を見てきたが、信用できない者が多かった。
おれ自身、2度の誤診を受けてあやうく死にそうになった事もある。
「麻酔」は、医師を信じきっている現代人への警鐘とも言える小説だ。