浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「檻」

No.2819
【今日の1冊】
北方作品初期の名作
北方謙三「檻」

北方謙三の初期の名作で、デビュー3作目の「檻」を読んだのは出版年の1983年でおれが19の時だった。実に凄いハードボイルド小説で、数年間は北方作品にハマった。39年ぶりに「檻」を再読してみた。

スーパーマーケット滝野商店を営む滝野和也は元ヤクザだが、今は温厚な経営者だ。しかし今の生活に満足しているように見えてアウトローの血は別にのなにかを求めていた。ヤクザ時代の仲間の頼みを受けた滝野はそれをきっかけに昔の世界に戻ってゆく。タイトルの「檻」とは妻と暮らす一般人としての生活を意味している。久々に「檻」を読んで金子正次の名作映画「竜二」を思い出した。妻と娘と暮らす平凡だが幸せな生活に空き足らず極道の世界に戻る元ヤクザを描いていた。

初期の北方作品は血の匂いと言葉の少ない世界がやはり素晴らしい。当時思ったことだが、北方謙三はどうして集英社の作品が他社より優れているんだろう。本作品は第2回日本冒険小説協会大賞を受賞している。