浮月堂黄昏抄

風流なライフスタイルのために

「愛の領分」

No.2797
【今日の1冊】
不倫ではないが秘密の匂い
藤田宜永「愛の領分」

Kindle58冊目の本は藤田宜永「愛の領分」だ。藤田宜永は本作品で直木賞を受賞した。妻は同じく直木賞作家の小池真理子だ。

「愛の領分」は不倫の匂いはするが不倫小説ではない。宮武淳蔵は東京のある街で洋服の仕立屋をしている50代の男だ。妻を早くに失い、息子と2人暮らし。そんな淳蔵のもとに昔の夜遊びの先輩だった高瀬昌平が20年ぶりに訪ねてくる。淳蔵が愛した女性・美保子と昌平は結婚した。難病に罹った美保子と会ってやって欲しいと頼む昌平。そしてもうひとりの女性・水彩画家の佳世も加わる。
昌平は淳蔵に佳世との結婚を勧めながら、淳蔵に恋する美保子と2人だけにしたりで真意が読めない。淳蔵は佳世と逢瀬を重ねるのだが・・・

不倫小説の結末は悲惨なものが多いが、「愛の領分」は人のいやらしさ、生々しさがうまく描写されている。ある意味で恋愛小説の傑作と言えるだろう。